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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2180号 判決 1982年12月23日

原告 萩原崇雄

右訴訟代理人弁護士 山崎俊雄

被告 北斗建設株式会社

右代表者代表取締役 上田敦彦

右訴訟代理人弁護士 三角信行

主文

被告は原告に対し、金三六〇万六五〇一円及びこれに対する昭和五四年四月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

この判決は、第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は原告に対し、金一二八四万七三三六円及びこれに対する昭和五四年四月二四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 第一項につき仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1.(一) 被告は建設工事請負等を目的として昭和三七年九月に設立された株式会社である。

(二) 原告は昭和四〇年一二月一日被告会社に入社し、昭和四六年一〇月に取締役に選任され、以後取締役の地位にあったものであり、昭和五四年三月末決算期の定時株主総会までその任期を有していた。

2. 被告は、昭和五四年二月一五日に召集された臨時株主総会において、原告の取締役解任の決議をなし、解任した。

3. 右解任は、被告会社代表者が、その不正不当な業務執行等を諌める原告を煙たがり、果ては被告会社から追放しようとしてなした正当の理由のないものである。

4. 原告は、右解任により、つぎのとおりの損害を被った。

(一)  右解任がなかったならば支給された筈の退職金七〇〇万円

(二)  右解任により原告の被告会社内外における信用は失墜せしめられ、今後同種業務に就くことによって生計を維持せざるをえない原告の受けた精神的苦痛は甚大なものがある。

右精神的苦痛に対する慰藉料としては金三〇〇万円が相当である。

5. また、被告は原告に対して、つぎのとおり給料及び賞与を支払わなければならない。

(一)  昭和五四年一月分及び二月分の給料として合計金五九万七三三六円

(二)  昭和五一年一二月分賞与金二五万円並びに昭和五二年七月分及び一二月分、昭和五三年七月分及び一二月分賞与各金五〇万円

6. よって、原告は被告に対し、前記4の損害金及び同5の未払金の合計金一二八四万七三三六円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五四年四月二四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

1. 請求原因1及び2記載の事実はすべて認める。

2. 同3記載の事実及び主張は否認する。

3. 同4記載の事実はすべて否認する。

なお、原告は被告会社の取締役であったのであるから、退職金支給規定の適用はない。

4.(一) 同5(一)記載の事実について、昭和五四年一月分の給料は金三三万一五〇〇円、同年二月分の給料は金二六万五二〇〇円である。

(二) 同(二)記載の事実は否認する。但し、昭和五一年度支給分として決定した金四〇万九九六〇円については未払であることを認める。

三、抗弁

1.(一) 原告は、何事に対してもすぐ不満を持ち、怒りやすく、感情的に激することが度々あり、部下に対しては威張った態度をとるなど性格的に問題があるため、上司や部下などと常に摩擦をおこし、しかも一旦生じた摩擦を根にもつため、原告の評判は極めて悪く、被告会社内における人間関係は完全に破綻していた。特に、原告が被告会社土浦支店長として在職中には、同支店の全社員から反発を買い、原告が同支店にいるのであれば同支店の全社員が退職するというような事態まで生じさせた。

(二) そのような中で、原告は次第に何らの業績をもあげないようになった。特に、原告が被告会社本社建築部長をしていたうちの昭和五二年一二月以降一年以上にも亘って、建築契約の注文を一件もとっていないのである。

(三) そればかりか、原告は、被告会社に隠れて、いわゆる「内職」として不動産売買の仲介をなし、自らの利得を図り、当然被告会社の収益となるべき仲介手数料を着服し、被告会社に損害を与えた。

(四) 以上のような事実に照らせば、被告会社が原告を取締役のまま放置しておくことができなかったことは当然である。このように、被告会社がなした原告の取締役解任には正当な理由がある。

2. 被告は昭和五四年三月二六日原告に対し、同年一月分及び二月分の給料として被告主張の合計金五九万六七〇〇円を支払った。

四、抗弁に対する認否等

1. 抗弁1記載の事実はすべて否認する。

建築部は、昭和五〇年夏、原告の進言により新設されたものであり、原告は恵まれない環境の中におかれながらも相当の成果をあげてきた。しかるに、昭和五二年暮ごろから被告会社代表者による妨害を受けるようになり、遂には、被告会社内に第二建築部が新設されるに及んで、原告は同部門から締出されてしまったのである。

2. 同2記載の事実は認める。

第三、証拠<省略>

理由

一、請求原因1及び2記載の事実はすべて当事者間に争いがない。

二、右争いのない事実によれば、原告はその任期満了前に被告会社取締役を解任されたものであることが明らかであるから、商法第二五七条により、右解任に正当の事由がないときは、原告は被告に対し右解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

従って、本件の最大の争点は、右解任に正当事由があるか否かということであり、以下この点に関する被告の主張(抗弁1)について判断することとする。

1.(一) 証人牟田口誠の証言によれば、原告は感情の起伏が激しく、また協調性に欠けるところがあるとして、少くとも昭和五三年ころには被告会社内で孤立していたことが認められる。

しかしながら、原告は昭和四〇年一二月に被告会社に入社して以来一〇年余に亘って被告会社に勤務してきたものであり、その間昭和四六年一〇月には取締役に就任するなどしているところに照らせば、原告はむしろその力量を評価せられ、重んじられていたとさえいえるのであって、原告の性格や行状に、被告会社内で勤務を継続していくことができない程の特段の問題点があったものとは容易に認め難いところである。

むしろ、証人鷹巣和夫、同平賀ミワの各証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、部下その他に対して厳しすぎると評されるような態度で臨むなど、ややもすると柔軟性と融通性を欠くことになるきらいはある(その点が協調性を欠くと評されることにもなったのであろう)ものの、基本的には真面目で生一本な性格であり、仕事熱心で被告会社に対してもそれなりに貢献するところがあったものと認められるのであり、それにも拘らず、前記のとおり原告が被告会社内で顕著に孤立するようになったのは、次第に被告会社代表者との折合いが悪くなったことに最大の原因があるものと推認されるのである。

(二) また、被告において主張する、原告が被告会社土浦支店長として在職中の出来事については、これを認めるに足る証拠はない。

証人鷹巣和夫の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告はその厳しい姿勢の故に一部の部下との間に軋轢を生じたことはあったものの、それは被告主張のような事態ではなく、かえって、原告は右土浦支店長在職当時懸命に仕事に励み、相当の成績をおさめたことが認められる。

2. 証人牟田口誠の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、昭和五三年に入ったころからは殆んど業績をあげることのないまま推移したことが認められる。

しかし右各証拠及び成立に争いのない乙第八号証によれば、原告が部長職にあった注文建築部は、昭和五〇年四月発足後それなりの実績を積み重ねてきたことが認められ、ただ、昭和五三年に入ってからは、前記のとおり見るべき成果をあげえていないのであるが、これは、証人平賀ミワの証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告はそのころ被告会社内で孤立し、また、何かと原告の営業活動に支障を来すような出来事に遭遇することもあったことが大いに関係しているものと認められるのであって、決して原告のみの責任に帰せしめうるものではない。

3. 成立に争いのない乙第一四、第二三号証及び証人村越恒夫、同江上倫仁の各証言によれば、原告は、被告会社に在職中、被告会社の業務としてではなく、原告個人として第三者間の不動産の取引に関与したことがあることは認められるけれども、原告がそのことによって報酬等を得たか否かは右各証拠によるも必ずしも判然とせず、そうであれば、右関与の事実のみをもってこれを非難するのは相当でない。

三、以上検討したところによれば、結局原告の取締役解任には正当な事由がないものというほかはないから、被告は原告に対し、右解任により原告の被った損害を賠償しなければならない。

そこで、原告の損害(請求原因4)について判断するに、

1. 被告としては、昭和四〇年一二月以来一三年余に亘って被告会社に勤務してきた原告に対し、特段の事情のないかぎり、相応の退職金を支給しなければならないものというべきである。この点について、被告は、原告は取締役であるから被告会社退職金支給規程の適用がない旨主張するけれども、そのことが直ちに退職金を支給しなくてもよいとする結論に結びつくものでないことは、現に、被告もその昭和五五年一〇月二日付準備書面の第三項において、原告が自主的に取締役を退任した場合には退職金を支払うべきことを予定していたものと解するほかない主張をしているところに照らしても明白である。そして、前記のとおり原告の取締役解任には正当事由がないのであるから、原告に対して退職金を支給しなくてもよいとする特段の事情もないものというべきである。

また、原告の勤務の実態は一般の従業員と特に変るところはなく、他に取締役の退職金算定に関する資料があることも窮われないのであるから、この際右退職金支給規程に拠ってこれを算出するほかはない。ところで、原本の存在・成立ともに争いのない甲第一号証によれば、会社の事業上の都合によって解雇した者(原告の場合はこれに準ずるものということができる)については、勤続年数一三年の場合は基本給に一二・八〇を乗じた額の退職金が支給されるべきことが認められるところ、成立に争いのない乙第七号証の一ないし四によれば、原告の基本給は月額二〇万九五〇〇円であることが認められるから、これを計算すれば

20万9500円×12.80=268万1600円となり、原告に支給されるべき退職金は右を下回ることはないものというべきである。

2. 更に、原告は慰藉料をも請求するけれども、この種事案にあって慰藉料まで請求しうるとするのが相当でないことは多く論ずるまでもない。

四、最後に請求原因5及び抗弁2について判断する。

1. 被告が原告に支払うべき昭和五四年一月分の給料が金三三万一五〇〇円、同年二月分のそれが金二六万五二〇〇円であること、被告は右合計金五九万六七〇〇円を同年三月二六日に原告に対して支払ったことは、結局当事者間に争いがない。

2. つぎに、原告主張の賞与についてみるに、被告が右主張にかかる金額の賞与を原告に対して支払うべき義務があることを認めるに足る証拠はない。

ただ、被告は、原告に支給すべきことを決定した昭和五一年度分の賞与金四〇万九九六〇円(差引実際支給額)を未だ支払っていないことは当事者間に争いがなく、また、成立に争いのない乙第七号証の二によれば、被告は、原告に対する昭和五二年度分の賞与として金五八万八一〇〇円を支給すべきことを決定し、うち社会保険料金二九四〇円、所得税金七万〇二一九円を控除した金五一万四九四一円を未だ支払っていないことが認められる。

従って、被告は原告に対し、賞与の未払分として合計金九二万四九〇一円を支払わなければならないことになる。

五、以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し金三六〇万六五〇一円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年四月二四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西理)

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